
こんにちは、ふー(@dr_fooooo)です。
ぼくは医師(小児科専門医、日本医師会認定産業医)であり、このブログでは主に医療にまつわるお話をしています。
今回はこどもがよくかかる病気のお話。
乳幼児がよくかかる疾患のRSウイルス感染症についてお話したいと思います。
みなさん聞いたことある名前かもしれません。
しかし、何のウイルス?治療法は?など疑問になることも多いかと思います。
今回はこの疑問にしっかりと答えていきたいと思います。
Contents
RSウイルス感染症とは?
RSとは、Respiratory Syncytialの略で「=呼吸器の合胞体」という意味です。
RSウイルスを日本語に訳すと、『呼吸器(つまり空気の通り道)に感染するウイルス』です。
RSウイルスに感染すると、咳・くしゃみ・鼻水といった風邪の症状がよく出ます。
特に最初は風邪との区別がつかないことがほとんどです。
多くのこどもは風邪症状で治ってしまうので、心配いらないことが多いです。
RSウイルス感染症の特徴
RSウイルス感染症は、
- 上気道炎(いわゆる風邪)
- 気管支炎
- 細気管支炎
- 肺炎
といった呼吸器感染症の原因ウイルスで、乳幼児などの小さいこどもに感染しやすいです。
感染経路や潜伏期間、ウイルスの検出期間、流行期
感染経路
飛沫感染、手指を介した接触感染が感染経路となります。
潜伏期間
潜伏期間は一般に2日から8日とされており、典型的には4日から6日とされています。
ウイルスの検出期間
ウイルスの検出期間は7日から21日と長く、感染力が強いこともあり、感染が拡がりやすいです。
流行期
例年は冬に流行することが多いですが、夏に流行することもあります。
近年は8月から流行が確認されたり、また沖縄などの地区は夏場が流行時期だったりと地域で大きく異なることもあります。
重症化した場合の症状
多くは風邪で終わるのですが、一部のこどもで重症化することがあります。
RSウイルスに感染し、数日後より喘鳴(ぜーぜー)が出現することがあります。
これは痰がつまって呼吸がゼーゼーしているのです。
さらに症状がひどくなる場合は、呼吸困難といった症状(陥没呼吸や努力呼吸)が出てきます。
この場合は酸素が必要なこともあり、入院が必要となることがあります。
数時間で症状が悪くなることもあり注意が必要です。
RSウイルスで入院(重症化)しやすいこどもは?
重症化しやすいこどもは一般に以下が知られています。
- 乳児(6か月未満、特に3か月未満)
- 先天性心疾患(VSDなど)
- 慢性肺疾患
- 早産児
- 免疫不全
- 遺伝性疾患(ダウン症など)
上に当てはまるこどもは重症化しやすいため、かかりつけ医の頻繁な受診が必要です。
RSウイルスの診断方法は?
RSウイルスの診断方法は比較的容易で、迅速検査で検出するのが一般的です。
RSウイルス抗原の迅速検査
鼻の分泌物からウイルスの抗原を検出して診断します。
インフルエンザと同じ方法ですね。
検査自体も10-15分で結果が出るので、クリニックにもあります。
問題点になるのが、保険適応です。
- 入院患者
- 1歳未満の乳児
- パリビズマブ(シナジス®)の適応児
つまり誰でも検査できるわけではありません。
多くの方が風邪症状のみで終わるからこのような適応となっています。
よく保育園から「RSウイルスかかっていないか小児科で検査をしてきてください」と言われているお母さんがいますが、保険適応でない場合も多いですから注意しましょう。
ちなみにどうしても検査したい場合は、自費で1,500〜5,000円くらいかかるので、かかりつけ医の先生と相談しましょう。
レントゲンや血液検査をすることも
重症化しているこどもでは、レントゲンで肺炎や気管支炎の評価、また血液検査で脱水や炎症の評価を行います。
RSウイルス感染症の治療
治療法についてですが、基本的にはRSウイルスをやっつけたり、増殖を止めるような薬はありません。
基本的には風邪と同じになります(対症療法)。
- 苦しいときは吸入や吸引
- 水分摂取
- 解熱剤
ここでは、吸入や吸引について説明していきます。
吸引について
乳幼児(特に1歳半未満)は鼻呼吸が基本であり、口呼吸が下手な時期です。
鼻汁・鼻閉(鼻水やはなづまり)により呼吸がより苦しくなることがあります。
吸引をこまめに行うことが大事です。
抗ヒスタミン薬(ポララミン・ペリアクチンなど)は、RSウイルスの鼻汁には無効です。
鼻水対策はこちらからどうぞ。
吸入について
病院やクリニックでよくされている治療方法としては吸入薬があります。
β2刺激薬(メプチン、ベネトリン)やステロイド(パルミコート)の吸入に関しては、有効性がないことがわかっています。
高張食塩水(普通の生理食塩水より濃いもの)などは有効なこともあるようですが、まだはっきりしていません。
RSウイルス感染症の予防薬であるパリビズマブ(シナジス®)
RSウイルスの予防薬として、シナジス®(一般名 パリビズマブ)という薬があります。
RSウイルスに対する特異的モノクローナル抗体といって、RSウイルスの感染を予防する働きがあります。
シナジスの適応は
- 早産児(出生週数によって適応期間が違う)
- 先天性心疾患
- ダウン症候群
- 慢性肺疾患
- 免疫不全
の方々が対象となります。
高額な薬(3kgの乳児で80,000円ほど)であるため、全員のこどもには使えないようにされています。
また月に1回、筋肉注射で行う必要があるため、痛みの伴う予防法でもあります。
まとめ
RSウイルスは、主に冬場に流行するウイルスですが、近年は夏場にも流行が見られています。
多くの方が風邪症状で治るのですが、重症化すると入院が必要になることもあります。
ワクチンはなく、基本的には手洗いうがいが1番の予防となります。
喘鳴(ゼーゼー)が出現している場合は、かかりつけ医をこまめに受診し、悪化がないか診てもらいましょう!
乳幼児はRSウイルス感染症以外でも頻回の吸引が必要なことも多く、自宅に吸引器(鼻吸い器)の購入をおすすめします。